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環境・応用気象研究部 第一研究室 概要

1.オゾン層に関する研究

図1:オゾン全量の時間-緯度断面図 図1:オゾン全量の時間-緯度断面図。左はMRI-CCM2によるシミュレーション結果を、右は衛星観測による結果を示す。単位はDU。

大気中のオゾンは地上よりはるか上空の成層圏(高度約10~50km)に主に存在して、生物にとって有害な紫外線を吸収し地球上の生命を守っています。最上層から地上までのすべての大気を、1気圧、0度にして圧縮すると約8,000mの高さになるのに対し、全ての大気中のオゾンを同じように圧縮したら約3mm分の高さにしかなりません。このオゾンの量を表すのに「DU(ドブソン・ユニット)」という単位が使われ、3mmの全オゾン量は300DUに換算されます。「オゾンホール」とは、南極域のオゾン全量が220DU以下となる領域のことを表しています。

ここ四半世紀の間、人間の作り出したフロンガス等によって南極上空でオゾンホールが形成されるなど、大規模なオゾン層破壊がおきています。オゾン層の破壊をくいとめるため国際的な合意のもとフロンガス等の規制が行われており、成層圏でのオゾン破壊物質の濃度は今後緩やかに減少し、オゾンホールの面積も縮小していくとされています。しかし現在においても非常に大きな規模のオゾン層破壊がおきており、今後もオゾン層の変動を注意深く監視していく必要があります。当研究室では、数値シミュレーションや観測データの解析等をとおしてオゾン層の破壊とその変動機構を明らかに出来るよう日々研究に取り組んでいます。

図2:南緯60~90°における2006年8~9月のオゾン鉛直分布
図2:南緯60~90°における2006年8~9月のオゾン鉛直分布。左はオゾン濃度、中央は観測データとモデル結果の差を、右は観測データとモデル結果の平均二乗誤差を示す。黒太線は独立した観測(オゾンゾンデ)を、灰色線はモデルのみ、赤線はオゾン全量観測とモデルを組み合わせた結果、緑線はオゾン鉛直分布観測とモデルを組み合わせた結果、青線はオゾン全量、鉛直分布観測とモデルを組み合わせた結果を示す。単位はmPa。

図1の左側は大気中のオゾンを当研究室で開発した数値シミュレーションモデル(MRI-CCM2)を用いてシミュレートした結果で、右側が衛星観測による結果を示します。この両者を比較しますと、MRI-CCM2はオゾン層の季節変化やオゾンホール(10月頃に南極付近で見られるオゾン量が少ない領域)をよく再現できていることが分かります(衛星観測でデータが欠けている部分があるのは、太陽の光が届かず観測ができないためです)。

オゾン層に限らず、天気予報の分野でも予測をするためには精度の良いモデルと精度の良い初期値が必要となります。精度の良い初期値を得るためにはモデルの結果と観測データをうまく組み合わせる必要があります。この方法として、従来は観測とモデルの結果を足して2で割るような手法が用いられてきましたが、当研究室では多数の予測モデルの結果を統計的に処理してより確からしい初期値を得る方法(アンサンブルカルマンフィルタ)に関する研究を進めています。

図2はより確からしい初期値を得るための研究成果を示しています。オゾン量やその鉛直分布をモデルと組み合わせるとどれくらい独立した観測値との差が小さくなるかを示したもので、左の図がオゾン濃度の鉛直分布を、中央と右の図がそれぞれ解析結果と独立した観測値の差と平均二乗誤差を示します。観測データを入れないモデルと比較して観測データを組み合わせることによってオゾン観測値をよりよく表現できることや、鉛直分布をも組み合わせることによって、よりオゾン観測値と近いオゾン鉛直分布が得られることなどが分かります。

これらの研究成果は、気象庁本庁での検証作業等を経て順次気象業務(紫外線情報等)の改良としてり入れられる予定です。

2.エーロゾルに関する研究

図3:全球エーロゾルモデルMASINGAR によるシミュレーションの例。白は硫酸塩、緑は炭素系、青は海塩、オレンジはダストの、光学的厚さ(大気中の鉛直積算量)で示しています。
図3:全球エーロゾルモデルMASINGAR によるシミュレーションの例。白は硫酸塩、緑は炭素系、青は海塩、オレンジはダストの、光学的厚さ(大気中の鉛直積算量)で示しています。

大気中には非常に小さな粒子状の物質が浮遊しており、地球の環境や気候・天候に対して大きな影響を及ぼしています。 このような微小な粒子はエーロゾル粒子と呼ばれています。 エーロゾルの発生源としては、砂塵嵐による鉱物粒子の飛散、海面からの飛沫、火山噴火、植生火災、植物の生命活動などの自然によるものの他、化石燃料の燃焼などの人間の活動によるものもあります。 エーロゾルによる身近な現象としては、春によく観測される黄砂や、近年報道などでよく取り上げられるようになったPM2.5などが挙げられます。黄砂は、東アジアの砂漠域から強風により大気中に舞い上がった鉱物粒子がエーロゾルとして浮遊しつつ落下する現象です。 黄砂現象に見られるように、エーロゾルは視程の悪化や呼吸器疾患のような大気汚染問題を引き起こし、人間の社会と健康とに被害を及ぼす可能性があります。PM2.5は黄砂も含むエーロゾルをその大きさ(2.5μm)で区切ったもので、黄砂以外にも先に挙げました様々な粒子が含まれています。PM2.5は日本で発生するものもありますが、近年経済発展が著しい東アジアでも大量に発生するため、黄砂と同様の過程で日本付近に到達することもあります。

図4:観測データとモデルの組み合わせによる効果。
図4:ひまわり8号データによるエーロゾル観測データとモデルの組み合わせ(データ同化)による効果。上段(a, b, c)は2015年4月15日07UTC、下段(d, e, f)は2015年4月16日02UTC。左(a, d) はひまわり8号によるエーロゾル光学的厚さの観測値、中央(b, e) はデータ同化なしの場合のモデルシミュレーション、右(c, f) はひまわり8号観測データでデータ同化した分布。ひまわり8号観測データ(a, d) に黒で示した領域は雲や雪氷のため観測値がない部分を示しています (Yumimoto et al. 2016)。

また、エーロゾルは大気放射を散乱・吸収することや、雲粒核として作用し雲の光学的特性を変化させることを通じて、地球の気候や天気にも影響を及ぼします。 地球温暖化などの気候変動を予測するためには、エーロゾルによるこのような影響を評価する必要があります。

当研究室では、Model of Aerosol Species IN the Global AtmospheRe (MASINGAR) (Tanaka et al. 2003)と呼ばれるエーロゾルの数値シミュレーションモデルを開発し、エーロゾルの調査や評価、気候への影響を研究しています。図3はMASINGARによってシミュレートされたエーロゾルを分布の一例を示しています。MASINGARは気象研究所が気候変動研究のために開発している地球システムモデルの一部分となっています。地球システムモデルが計算した大気の諸条件(風向、風速、気温、水蒸気量や陸面モデルに含まれている土壌水分、積雪量等)を使い、自然起源エーロゾルの放出量を計算できるほか、様々な研究機関が推定した各種エーロゾルの放出量のデータベースなどを用いてエーロゾルの舞い上がり、輸送、沈着(乾性、湿性)をシミュレートすることができます。また、MASINGARは気象庁の黄砂予測で用いられています。

先のオゾンの場合と同様に、エーロゾルにおいても観測データとモデルの組み合わせは非常に有効です。当研究室では、オゾンと同様のアンサンブルカルマンフィルタを用いて観測データとモデルを組み合わせる研究を実施しています。図4は当研究室の研究成果の一例を示しています。モデルのみによるシミュレーションでは、日本への黄砂の到達は予測できているものの、黄砂の領域が過大に計算されています。気象衛星ひまわり8号によって観測されたエーロゾルのデータを組み合わせることにより、実際に黄砂や大気汚染によるエーロゾルが観測されたものとほぼ等しい領域のみ黄砂を計算することができました (Yumimoto et al. 2016)。この領域は別の衛星観測の結果ともよく一致しています。これらの研究成果も、気象庁本庁での検証作業等を経て気象業務(黄砂情報等)の改良として順次採り入れられていく予定です。

3.大気質に関する研究

図5:2013年6月19日のモデルによる地上付近のオゾン濃度のシミュレーション結果
図5:2013年6月19日のモデルによる地上付近のオゾン濃度のシミュレーション結果。単位はppb。上段は環境省による観測結果(そらまめ君)を、下段はNHM-Chemによる結果を示す。

近年、光化学オキシダント注意報や警報が報道される機会が多くなってきました。かつては日本の工業地帯や大都市近傍などでよく見られましたが、近年は工業地帯や大都市から離れた場所でも光化学スモッグ注意報が発令されることも増えています。この原因の一つとして、先のPM2.5の場合と同様に近年の経済発展が著しい東アジアからオキシダントの前駆物質が大量に放出され、風に乗って日本付近に到達するようになったことも挙げられています。

当研究室では、オゾン層の章で紹介した化学輸送モデル(MRI-CCM2)で計算対象を成層圏から対流圏に拡張すると共に、より細かいオキシダント等の動態をシミュレートするために、領域化学輸送モデル(NHM-Chem)の開発を進めています。

図5は領域化学輸送モデル(NHM-Chem)による日本付近のオキシダント濃度のシミュレート結果を示します。領域化学輸送モデルはその細かい空間解像度(現在およそ20km)の利点を生かし、前線の位置をより正確に表現でき、その結果この時に前線の北側に見られた日本海側での高いオキシダント濃度をよい精度で再現できています。

これらの研究成果も、気象庁本庁での検証作業等を経て順次気象業務(大気汚染気象情報等)の改良としてり入れられていく予定です。

研究室 メンバー

官職名氏名
室長眞木 貴史
主任研究官直江 寛明
主任研究官田中 泰宙
主任研究官大島 長

last update : 2015-05-18
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