文字のサイズを変更できます:小さい文字サイズ|標準の文字サイズ|大きい文字サイズ 最終更新日:2017年6月2日
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大気・雲の放射観測研究

 豪雨・豪雪,竜巻などの災害をもたらす雲の発生を高精度に予測するためには,短時間で変動する発生環境場や,雲の物理特性を理解する必要があります.しかし,これらの雲の熱力学的環境場や雲物理量を高頻度に観測することは簡単ではありません.これを解決するために,地上マイクロ波放射計による大気・雲の観測研究を行っています.

 そもそも放射は,すべての物体が放出している電磁波のことです.大気中の気体分子や水蒸気,雲からも放射があります.放射はさまざまな周波数(波長)の電磁波が重なっており,物質によってその重なり方が異なります.そのため,各物質の放射の強さが周波数によってどのように変化するかがあらかじめわかっていれば,それらの物質に感度のある複数の波長の放射の強さを調べることで,各物質がどのくらい大気中に存在しているかを推定できるのです.

 放射の強さを観測する測器は放射計とよばれ,気温や水蒸気などの物理量を推定するものとして,マイクロ波領域の放射の強さを観測するマイクロ波放射計があります.この測器はレーダーのように電波の送信はせず,20〜30と50〜60 GHzのうち複数の周波数の放射の強さを数秒〜数分の時間間隔で受信します.これらの周波数で観測される放射の強さは,大気中の酸素や水蒸気,雲水による放射と散乱が寄与しています.

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水蒸気,酸素,雲水の吸収特性の例.荒木(2014)「雲の中では何が起こっているのか」の図を改変.
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地上マイクロ波放射計.MP-3000A (Radiometrics).荒木(2014)「雲の中では何が起こっているのか」より.

 上の図から,60 GHz付近の周波数で酸素の吸収(放射)が大きいことがわかります.酸素分子の吸収の大きさは気温・気圧が関係するため,気圧(つまり高度)に対する気温分布があらかじめ得られていれば,各周波数帯での放射の強さを推定できます(これを前方計算といいます).しかし,実際に観測値があるのは各周波数帯での放射の強さなので,逆問題を解くことで気温の高度分布を推定する手法が必要です.また,20〜30 GHzの周波数帯の放射は水蒸気や雲水に感度があるため,これらの周波数帯の観測値を用いて水蒸気の高度分布も逆問題を解くことで得ることができます.

 Araki et al. (2015)では,数値予報モデルの結果を第一推定値として,鉛直一次元変分法データ同化(1DVAR)により,上記の逆問題を解いて気温・水蒸気の高度分布を正確に求める手法を開発しました.高層気象観測と比較して検証した結果,1DVARによって数値予報モデルが苦手としている大気下層の気温・水蒸気の精度が向上していました.

 Araki et al. (2014)は,この手法を使って2012年5月6日に茨城県つくば市に藤田スケールF3の被害をもたらした竜巻を生んだ積乱雲の発生環境場を調べました.ちょうどこの事例では,竜巻から20 km未満の距離で地上マイクロ波放射計による観測に成功しており,世界的にも貴重な観測値を得ることができました.この竜巻はスーパーセルと呼ばれる特殊な積乱雲によって発生しており,1DVARを用いた解析から,竜巻が発生する約1時間半前から大気熱力学場が不安定化していたことがわかりました.また,竜巻発生時刻付近で局所的に大気下層の鉛直シアが大きくなっており,つくばで発生した竜巻の原因となったスーパーセルは,アメリカで発生するF2-F5クラスの強い竜巻をもたらすスーパーセルの環境場に分類されることがわかりました.

 地上マイクロ波放射計による高頻度観測結果は,3次元・4次元変分法データ同化によって数値予報モデルの初期値に組込むことも可能です.今後,データ同化による予測実験のほか,開発した1DVARを用いた積乱雲の発生環境場の統計解析,雲物理特性の解明なども行っていく予定です.

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2012年5月6日つくば竜巻近傍での自由対流高度の時間変化.Araki et al. (2014)の解析結果をもとに作図.
荒木(2014)「雲の中では何が起こっているのか」より.

これまでに開催した研究会

参加している研究コミュニティ

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