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東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う
放射性物質の移流拡散について




※グラフ・動画をご覧になる前に

 ここで示す放射性物質の移流拡散は、地表面や海面への沈着(大気からの除去)を考慮しないなど様々な仮定に基くシミュレーションであることに注意してください。



 気象庁気象研究所(茨城県つくば市)では、文部科学省の放射能調査研究費(平成22年度)により、大気試料の採取及び試料中の放射能の分析を行っています。

 下図上段は、3月の福島第一原発事故の発生に伴う、つくばにおける各ガンマ線放出核種の濃度の変動です。2つのピークは、事故に伴い大気中に放出された放射性物質が風により運ばれたものと考えられます。

 この2つのピークがどのように生じたかを調べるために、移流拡散モデルを用いてヨウ素131を仮定した大気拡散シミュレーションを行いました。その結果、2つのピークは、シミュレーションにおいて福島第一原発から放射性物質が移流拡散されたタイミングと一致していることが分かりました。このことは、試料分析・シミュレーション双方が、一定程度の正しさをもって現実の大気の流れを明らかにしていることを示唆します。

 ただし、地表面や海面への沈着(大気からの除去)を考慮しないなど、このシミュレーションでは様々な仮定に基づいており、実際の気象や大気における物質の移流拡散を完全に再現しているものではありません(下記の解説参照)計算結果の妥当性についての評価は、現時点では不十分であることにご注意ください。気象研究所 環境・応用気象研究部では、エアロゾルなど大気微量物質の生成・移流拡散・除去過程に関する研究を実施しており、今後も引き続き移流拡散モデルの高度化を進めてまいります。

観測グラフ&分布図

 気象研究所で得られた主な大気中放射性核種の濃度(上段)と、その濃度が高かったときのシミュレーションによるヨウ素131の移流拡散状況(下段, 地表付近の濃度)。単位は、このシミュレーションによる福島第一原発付近での濃度に対する比率(%)で、現実の濃度の絶対値を示すものではないことに注意福島第一原発からの放出は一定と仮定している


(下の動画再生の部分をクリックすると動画が開始します)

動画 シミュレーションによる1時間ごとのヨウ素131の移流拡散状況。ヨウ素131が一定量放出され続けると仮定した、地表付近の濃度(下記のシミュレーション条件参照)。計算対象期間は日本時間3月10日09時〜3月25日09時。単位は、このシミュレーションによる福島第一原発付近の濃度に対する比率(%)。福島第一原発からの放出は、計算期間中において一定と仮定しているため、現実と異なり、事故以前から放出され続けている図となっていることに注意


≪解説≫

 試料捕集・分析条件

(手法)
 屋外地上に設置した大容量サンプラー(型式:SIBATA HV-1000F)により、石英繊維フィルター(型番:QR100, サイズ203mm×254mm)に大気を通し、エアロゾル(大気中の微粒子)を捕集し、試料とした。通常は1回につき1週間以上の捕集時間だが、事故が明らかになったことから、1回の捕集時間は6時間〜1日とした。サンプラーの流量は1分あたり700リットルで設定され、収集された空気の量は約250、500、または1000立方メートル(それぞれ捕集時間が6, 12, 24時間のとき)になる。

 試料は、ペレット状(小さな塊)に圧縮し、ゲルマニウム検出器を用いたガンマ線分析装置で核種ごとの放射能を計測した。最初の濃度ピーク以前の試料は濃度が低く、つくばにある検出器は汚染を受けて測定が困難なので、(大きな汚染が及んでいない西日本にある)京都大学原子炉実験所で測定した。

 検出された放射性核種は、モリブデン99-準安定状態テクネチウム99(半減期65.9時間)、準安定状態テルル129-基底状態テルル129(半減期33.6日)、テルル132-ヨウ素132(半減期3.20日)、ヨウ素131(半減期8.02日)、ヨウ素133(半減期20.8時間)、セシウム134(半減期2.07年)、セシウム136(半減期13.2日)及びセシウム137(半減期30.0年)である。粒子状物質を捕集して分析しているため、気体状のヨウ素については、今回捕集されていないことに注意が必要である。


(分析結果)
 変動のグラフは2つのピークを持つ。これらのピークは、2011年3月における、放射性物質を多く含む気塊の顕著な関東平野への2例の移流拡散事象を捉えていると考えられる。それぞれのピークは、事故現場での放出物の違いを反映して、異なる放射性核種の組成を示した。この違いは、場所による放射性核種降下量の違いを生み出している可能性がある。

謝辞:測定を快諾いただいた京都大学原子炉実験所の沖准教授、長田氏に感謝いたします。


 シミュレーション条件    
気象条件の初期値/境界値 アメリカ環境予測センター(NCEP)の客観解析データ(東西南北1度格子)を使用
※観測値と大気モデルを使って解析した3次元の気象状態(気温・湿度・気圧等)を示すデータ
気象モデル 気象研究用のコミュニティーモデル(WRF V3.1)を使用 (Skamarock, 2008)
※米国大気研究センター (NCAR)で開発された気象研究用のコミュニティーモデル
計算対象期間 2011年3月1日から2ヶ月間
計算領域及び格子間隔 日本域(59格子x59格子; 水平計算格子間隔20km)
関東平野(100格子x100格子; 水平計算格子間隔5km)
移流拡散の扱い方 オイラー法(格子にトレーサーが流入・流出する視点での扱い)
移流 質量保存,ピーク保存する移流アルゴリズム (Walcek and Aleksic, 1997)
※物質濃度の空間分布が不自然に変化しないよう調整しながら計算を進める方法
拡散 FTCS (水平拡散: Smagorinsky, 1963)
FTCS (鉛直拡散: 乱流運動エネルギーに基づく鉛直拡散係数)
※FTCS( Forward-Time Central-Space):時間微分を前進差分に用い、空間微分を中心差分に用いる方法
発生量 ヨウ素131の換算で1時間あたり単位量を連続的に一定量発生
発生高度 0〜100m, 100〜200m, 200〜400mの3種類
崩壊半減期 8.02 日(ヨウ素131を想定)
重力や乱流などによる地表への沈着 考慮していない
降水による沈着 考慮していない



 気象研究所の「環境における人工放射能の研究」報告

 ・ 地球化学研究部:研究成果報告へ


◇更新履歴
 2011.07.08:掲載

◇本件についての問い合わせ先
 気象研究所企画室
 電話 029-853-8535