所長あいさつ

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 気象研究所は、気象業務に関する技術の改善・高度化のための研究・開発を担う気象庁付属の研究機関です。


 近年は、令和3年7月の東海地方・関東地方南部を中心とした大雨や、同年8月中旬の西日本・東日本での大雨、そして令和2年7月豪雨などにより、暴風・洪水・斜面崩壊・土石流・高波・高潮などの大きな気象災害が毎年のように発生しています。また、令和3年2月と令和4年3月の福島県沖の地震、さらには桜島、阿蘇山、本白根山、口永良部島、諏訪之瀬島の噴火など地震、火山活動も活発です。このように災害を引き起こす様々な激しい自然現象が頻繁に発生している状況で、国民の気象庁に対する期待はますます高まってきています。これに応えるため、気象研究所は地球科学分野の専門家集団として、国内外の英知を集約しつつ、気象業務を技術的に支えるための最先端の研究・開発を担っています。


 これまでも当所では、
観測・予測に関する基盤的な技術開発、
大規模な自然災害を引き起こす集中豪雨・台風・地震・火山噴火等の発生の仕組みの解明、
気象庁が発表する各種情報の改善に資する研究、
地球規模の気候変動の予測、地球環境問題の解決策に関する研究など、
わが国の気象業務を支える科学技術の研究・開発を進めてきました。その成果、知見は、天気予報・防災情報や気候情報、地震活動・火山活動の監視技術などの改善・高度化のみならず、広く国内外で活用されています。


 このような状況のなか、平成30年8月に交通政策審議会気象分科会から提言された「2030年の科学技術を見据えた気象業務のあり方」の下で、2030年に向けて数値予報精度向上をはじめ各気象分野についての研究開発を推進しているところです。また、平成30年12月に施行された気候変動適応法の下で、それぞれの地域・分野で気候変動適応策を推進することとなり、その確実な実行に資するためのきめ細かい地球温暖化予測に関わる研究を進めています。豪雨災害に関しては、令和2年7月豪雨で線状降水帯がもたらした大雨により甚大な被害が発生したことを受けて、同年12月に気象庁が「線状降水帯予測精度向上ワーキンググループ」を発足させ、庁外の研究者とも連携しながら予測精度向上の取組を加速化させています。さらに、令和3年には各地で発生した線状降水帯の大雨による被害を踏まえて線状降水帯研究の促進のための緊急研究を立ち上げ、令和4年に大学機関等と共同で集中観測を実施する計画です。地震火山分野では、南海トラフ地震への防災対策について、これまでの地震予知体制からの転換が図られているほか、近年の火山噴火災害や火山活動の活発化を受けて文部科学省による次世代火山研究・人材育成総合プロジェクトが進められています。


 一方、科学技術を取り巻く環境は、ビッグデータを創出する新たな観測手段の出現と計算科学の進展、人工知能(AI)技術の進展に伴うデータ利用に関する応用分野が急速に拡大しています。気象研究所においても、これらの技術を取り入れた各種予測技術の研究に着手しており、急激に変化する技術環境へ速やかに対応できるよう努めています。


 気象研究所は、地球科学分野におけるわが国の総合的専門家集団として、高度かつ最先端の研究を推進し、その成果を気象庁が発表する様々な情報の高度化・精度向上に反映させることにより、自然災害の軽減に貢献できるよう、また、気候変動等わたしたちの生活を取り巻く環境に影響を及ぼす自然現象の理解の増進や適応策の検討に貢献できるよう、国内外の研究機関と連携し、一層の研究開発に取り組んでまいります。


 今後とも、気象研究所へのご支援、ご協力をよろしくお願い申し上げます。


気象研究所長 松村 崇行